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「コロナ後」の社会は「コロナ前」より良くなる?

そもそも「コロナ後」というのがあるのかどうかは脇に置いて、全国紙 Die Zeit は 5 月 7 日付‟コロナ後の未来( Zukunft nach Corona )”という特集の中で、ドイツの様々な分野の専門家に、コロナ後の社会はコロナ前と比べてどう変貌するであろうかについての見解を聞いている。各専門家ともそれぞれの分野で特に未来に焦点を当てた研究に取り組む、いわゆる“未来研究者”とも呼ばれる人たちであり、おそらく研究者自身の期待や希望が投影されているのであろう、全員が前向きで楽観的な予想を展開していることが共通点である。彼らが描くコロナ後のドイツ社会はどういう方向に進むのであろうか。以下分野ごとにこれら研究者の見解を紹介する。(注:各発言は逐語訳ではなく、概要を日本語にしたものである。)   ①コミュニケーション (テクノロジー&イノベーション専門アクセル・ツヴェック氏) 「コロナ時代にわれわれが学んだのは、複数世代にまたがる‟家族”の重要性だ。孫が祖父母のために予防注射のオンライン予約を引き受ける、アルバイトを失った学生に親や祖父母世代が金銭援助する、などだ。助け合うことで切り抜けられるとの認識は、今後血縁関係を超えて、友人夫妻と一軒の家をシェアして双方の子供を一緒に育てるなど、家族の定義を広げた形に発展するかもしれない。また、離れた家族や友人とのコミュニケーションが主にデジタルでなされてきたコロナ時代には、われわれは、二次元画面だけを頼りに相手の心情を察することを学ばねばならなかった。それだけ相手に注意深く耳を傾ける必要があったわけで、ここで身に着けたコミュニケーションの姿勢はコロナ後も大きな強みとなるであろう。デジタルコミュニケーションで人間関係を構築することは、コロナ前よりコロナ後の方が容易になると思われる。そしてビジネスのみならずプライベートでも、直に人に会う必要性があらかじめ吟味され、回数が絞られるようになることも予想される。」   ②交通 (都市計画及びモビリティ専門シュテファン・カーステン氏) 「疫病時代の勝者は自転車である。欧州にはすでにコロナ前からとっくに自転車がトレンドとなっていた国が複数あるが、ここに至ってドイツ社会でもはっきり自転車に舵を切る傾向が見られる。これには複数の理由があるが、まず、疫病...

自由か、平等か

 共産主義独裁体制下にでもない限り、われわれは「自由と平等」をセットで言うことに慣れている。民主主義や基本的人権が浸透した社会で、まさか「自由」と「平等」が対立する概念として問題を投じてくることがあろうとは、通常であれば想像しない。だが新型コロナは昨年以来「通常」をひっくり返してきたのであり、つい先日までドイツでは「自由か平等か、どちらを優先させるか」という議論が注目の的になっていた。これは、新型コロナの予防注射をめぐる話である。   このところドイツでは予防注射のスピードが加速しており、それに伴って新感染者数も日々減少、明るい出口が見え始めてきたところである。一月前、 4 月半ばにはまだ 2 万人どころか 3 万人を超えることすらあった一日の新感染者数が、 5 月に入って 1 万人台に落ち、その後ほとんど毎日減少を続けている。あちこちに作られた予防注射センターに加えて、 4 月上旬からは一般医院(ホームドクター)での予防注射も解禁され、またワクチンの入荷も安定してきたせいで、国民の間での接種スピードがようやく軌道に乗ってきたのである。 5 月の第一週が終わった時点で、少なくとも一回目の注射を終えた国民は 3 分の 1 近くに上った。同じ時点で二回目の注射も終えた国民は、 9 %強というところであった。今はまだ年齢や職業ごとに国民をリスクグループに分け、順番に注射の予約を取っている段階であるが、今後はワクチンの入荷状況を見ながら、早ければ来月 6 月から年齢に関係なく誰でも注射の予約が取れるように全員に門戸を広げることが計画されている。連邦保健省は 8 月、遅くとも 9 月中には、予防注射を望むドイツの成人全員が二回目の注射も終えていることを目標に掲げている。さて、予防注射が順調に進み始め、特に二回目の注射を終えた人の数が増えるにつれて政界の議論のテーマに上ってきたのは、「これまで様々に制限してきた基本的人権を、注射を完全に終えた人から順番に‟返却”すべきかどうか」であった。今振り返るとドイツでは、新型コロナが登場して以来実に様々な議論が生じてきた。コロナ対策と民主主義の折り合いの悪さ、連邦制の欠点、 EU 内の連帯の問題、倫理的観点からの予防注射順番決め議論など、政治家ばかりでなく国民の多くが一言意見や文句を言いたくなる場面がこれまでにも...

コロナの一年:疲弊するドイツと謝罪する首相

目下ドイツはイースター連休の真っただ中であるが、今年は祝日が一日増えるところであった。本来なら毎年キリストの受難日である金曜日( Karfreitag )から始まり、蘇りの日曜日( Ostersonntag )と月曜日( Ostermontag )までがイースター連休なのだが、今年連邦政府はその前日の木曜日も祝日にすることを、いったん決めたのである。本来なら平日である日を国が例外的にその年だけ国民の祝日にするなど、私がドイツに住み始めて 30 数年間一度もなかったと思う。これはもちろんコロナ感染対策であり、今年はイースター連休に引っ掛けて国民が出勤せずに家に籠る日を一日増やそうとしたのだ。昨年のイースター連休はコロナ第一波対策のロックダウンの真っただ中であったため、予約していた休暇旅行をキャンセルせざるを得なくなった人たちが多かったようだが、その分今年こそは出かけるぞと楽しみにしていた国民が少なからずいたことであろう。だがこの期待は見事に裏切られ、今年はいくら祝日の日数は増えても国の内外問わず旅行を控えてなるべく動かぬよう、親戚が集まることも避けるようとの国民へのお達しが発表されたのは 3 月 23 日のことであった。法的にどうなのかという点を別にしてもいきり立ったのは経済界であり、本来平日である木曜日までがいきなり祝日とされれば経済的損失はどれほどになるかとの苦情が殺到したものと思われる。なんと連邦政府は早くもこの翌日に、前日の決定を取り下げたのである。一体政府は何をやっているのだ!という、振り回される国民の怒りと信頼喪失を予期したのであろう、この日「木曜を祝日にするという決定は取り消します。木曜は平日のままにおきます」とプレス発表した際に、メルケル首相は、ドイツにおいては実に珍しいことをした。国民に文字通り謝ったのである。「誤りに気づいたらすぐに誤りと認めねばなりません。そして直ちに修正しなければなりません。今回の誤った決定はすべて首相である私一人の責任です。国民の皆さんに余計な混乱を招いてしまったことをお詫びします。どうぞお許し下さい( Ich bitte Sie um Verzeihung )」と、メルケル首相はテレビカメラを前にして述べた。首相が政策の誤りを認めたのみならず、文字通り国民に「許しを乞うた」という出来事は、この日ドイツでは大々的に報じられた。...

Brexitに続く“ワクチン戦争”-EUと英国の関係はいかに?

( 2020 年 12 月 29 日付 「さよなら英国」 の続報) 結論するのは時期尚早であろうが、ドイツでは、 Brexit がもたらした悪影響のあれこれが 1 月半ばを過ぎて頻繁に報道され始めた。 Brexit はやはり英国と EU 間の貿易に暗い影を落としているのだ。「 Brexit の損失」、「流通業者がかける急ブレーキ」、「北アイルランドのスーパーの商品棚は空っぽ」、「『もう欧州大陸からは何も買わない』」、「今英国人にまわってきた Brexit のツケ」・・・といった報道の見出しが毎日のように目に入ってくる。互いに関税のかからぬ自由貿易を続行するという点で昨年末両者は合意したのだが、それでももはや EU 加盟国ではない英国との貿易には税関コントロールが復活し、それに伴い様々な貿易書類を整える必要が生じた。互いにこの準備が万全に整っていないまま今年初頭から税関手続きが必要となったために、時間と手間がかかるばかりではなく、税関書類の不備から通過できない貨物が続出しているのである。たとえすんなり通過できたとしても、税関手数料がかかり過ぎて販売を断念するケースもある。両者間の流通が大きな打撃を受けているのだ。ドイツでまず伝えられたのは、税関コントロールで待機を強いられる大型輸送トラックの長蛇の列と、スコットランドからの EU 向け海産物輸出のトラブルであった。これまでなら同日に大陸の買い手に届けられていた魚や甲殻類といった海産物が、 5 日も税関手続きで留め置かれたためにすっかり腐敗してしまい、到着と同時に廃棄せざるを得なくなったという「悲劇」である。スコットランドの漁港では豊漁であっても流通に乗せることができず、獲った魚をまた海に捨てているというニュースも伝えられた。倒産の危険に瀕したスコットランドの海産物関連会社が、英国政府に賠償支援を求めるデモを展開したことも報道されている。また大陸側の運送会社の中には、積み荷の 90 %が税関書類の不備で突き返されることを理由に、状況が落ち着くまでは EU ・英国間の輸送は受け付けないとするところも出始めている。オンライン販売大手 Amazon ですら、英国から大陸への販売は制限し、それでも英国商品を注文する大陸の顧客には、税関手数料が非常に高くつくことを警告している。衝撃的なのは、棚がほとんど空っぽになった北アイルランド...